「辞めないと学校に通えない」と思っていた人へ — 在職のまま失業給付と同じ額が出る、教育訓練休暇給付金
「本気で資格を取るなら、いったん辞めるしかないのかな」
半年の研修課程。平日昼間の授業。 シフトでは、どう組んでも通えない。 辞めれば通える。でも収入が止まる。失業給付は「働く気がある人」のための制度だから、学校に通っている間はもらえない——そう思って、諦めていませんか。
2025年10月から、その前提が少し変わりました。 会社に籍を置いたまま、長めの無給休暇を取って学ぶ間、雇用保険から失業給付と同じ額が出る制度ができています。 名前は「教育訓練休暇給付金」。まだあまり知られていないので、先に全体像を整理しておきます。
一言でいうと「辞めないで使える失業給付」
厚生労働省の説明はこうです。
労働者が離職することなく、教育訓練に専念するため、自発的に休暇を取得して仕事から離れる場合、その訓練・休暇期間中の生活費を保障するため、失業給付(基本手当)に相当する給付として、賃金の一定割合を支給する制度
ポイントは3つです。
- 辞めない。 休暇が終わったら同じ会社に戻る前提
- 無給の休暇。 会社から給料は出ない代わりに、雇用保険から出る
- 額は失業給付と同じ計算。 休暇前6か月の賃金日額と年齢で決まる
以前からある「教育訓練給付金」(受講料の2〜8割が戻る制度)とは別物です。あちらは受講料の補助、こちらは休んでいる間の生活費の補助。両方の条件を満たせば、性質が違うので併用を前提に考えられます(後述)。
対象になる人
パンフレットに書かれた条件を、そのまま並べます。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| 雇用保険の「一般被保険者」 | 65歳以上の高年齢被保険者、短期雇用特例、日雇は対象外 |
| 直近2年で12か月以上 | 休暇開始前2年間に、11日以上働いた月が12か月以上ある |
| 加入5年以上 | 休暇開始前に、雇用保険に通算5年以上入っている |
3つ目が意外と効きます。転職していても、離職期間が1年以内なら前後の期間を通算できます。ただしその離職期間に失業給付を受けていたら通算できません。 過去に失業給付や育児休業給付を受けたことがある人は、加入期間の数え方が変わる場合があるので、ハローワークで事前に確認できます(休暇を始める前に確認可、とパンフレットに明記されています)。
対象になる休暇
ここがこの制度のいちばんの関門です。
- 就業規則や労働協約に定められた休暇制度に基づくこと
- 本人が自発的に希望し、事業主の承認を得ていること(業務命令で受ける研修は対象外)
- 30日以上の無給の休暇であること
つまり、会社に「教育訓練のための休暇制度」がないと使えません。 いくら本人が条件を満たしていても、制度の入口は会社側にあります。 厚生労働省は事業主向けに導入事例集も出しているので、職場に制度がなければ「こういう制度ができたので、就業規則に入れてもらえませんか」と持ちかけるところから始まります。パンフレットには、教育訓練以外の目的も含む休暇制度(たとえば自己啓発休暇のようなもの)でも、教育訓練のための休暇であれば該当する、とあります。
もうひとつ。休暇の中で有給休暇を取った日や、収入のある仕事をした日は支給されません。無給で休んでいる日だけが対象です。
対象になる学び
- 大学・大学院・短大・高専・専修学校・各種学校の教育訓練
- 教育訓練給付金の指定講座を持つ法人が行う教育訓練
- 職業に関する教育訓練として厚生労働省が定めるもの(司法修習、語学留学、海外大学院など)
看護・介護・保育の人に関係が深いのは上の2つです。 認定看護師の教育課程、介護福祉士実務者研修のスクーリング、保育士養成校の科目等履修——通っている先が専修学校・各種学校か、教育訓練給付の指定講座を持つ法人かで判断されます。 「この学校・この講座は該当しますか」は、申し込む前にハローワークに聞けます。
いくら、何日もらえるか
日額は失業給付と同じ計算です。休暇開始日の前日を離職日とみなして、前6か月の賃金から出します。年齢でも変わります。 パンフレットに載っているイメージはこうです(額面月収→給付月額、30日換算)。
| 額面月収 | 給付月額のイメージ |
|---|---|
| 25万円 | 約17万円 |
| 35万円 | 約19万5千円 |
| 45万円 | 約22万5千円 |
月収が上がるほど割合は下がります。失業給付と同じで日額に上限があるためです。上限・下限は毎年8月に改定されるので、具体額はハローワークで確認してください。
日数は雇用保険の加入期間で決まります。
| 加入期間 | 給付日数 |
|---|---|
| 5年以上10年未満 | 90日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 |
| 20年以上 | 150日 |
受け取れる期間は休暇開始日から1年間です。1年を超えて休んでも、残りの日数があっても支給されません(妊娠・出産・疾病などで延長できる場合あり)。 逆に、1年以内なら休暇を分割して取っても対象です。「前期3か月・後期2か月」のような通い方もできます。
手続きの流れ
事業主と本人の両方が動きます。
- 本人と会社が、休暇の期間・訓練の目標・内容について合意する
- 本人が「教育訓練休暇取得確認票」を会社に出す
- 休暇開始後、会社が賃金月額証明書などをハローワークに提出する(休暇開始日の翌日から10日以内)
- 会社から支給申請書などが本人に渡されるので、本人が住所地のハローワークに提出して受給資格が決まる(休暇開始日から30日以内)
- 以降、休暇開始から30日ごとに認定申告書をハローワークに出し、審査のうえ支給される
失業給付の「認定日」に通うのとよく似た形です。
いちばん大事な落とし穴
この給付金を受けると、休暇開始前の雇用保険の加入期間がリセットされます。
失業給付の受給資格は「離職前2年で12か月以上」のように加入期間で決まりますが、教育訓練休暇給付金を受けた人は、休暇開始より前の期間を通算できなくなります。 つまり、休暇明けに間もなく退職しても、しばらくは失業給付がもらえません。 「学び直してから転職するつもり」の人は、ここを知ったうえで順番を考える必要があります。パンフレットでも、事業主向け・労働者向けの両方の注意事項として強調されている点です。
リセットされないものもあります。パンフレットによれば、
- 教育訓練給付金(受講料の補助)の支給要件期間には影響しない
- 育児休業給付・介護休業給付のみなし被保険者期間にも影響しない
ので、「休暇中の生活費はこの制度、受講料は教育訓練給付金」という組み合わせ自体は制度上ふさがれていません。
教育訓練給付金との違いを一表に
| 教育訓練給付金 | 教育訓練休暇給付金 | |
|---|---|---|
| 何を補うか | 受講料 | 休んでいる間の生活費 |
| 辞める必要 | なし(在職でも離職後でも) | なし(在職が前提) |
| 会社の制度 | 不要 | 就業規則等の休暇制度が必要 |
| 加入期間 | 初回は1年以上(専門実践は2年以上)、2回目以降は3年以上 | 5年以上(+直近2年で12か月) |
| 受け取り方 | 修了後などにまとめて | 30日ごとに認定 |
| 失業給付への影響 | なし | 加入期間がリセット |
受講料の制度については「その受講料、2割〜8割戻るかもしれません」で区分ごとに整理しています。
まとめ
- 2025年10月から、辞めずに30日以上の無給休暇を取って学ぶ間、失業給付と同じ額が出る制度がある
- 条件は、雇用保険に5年以上・直近2年で12か月以上、そして会社に教育訓練のための休暇制度があること
- 日数は加入期間で90日・120日・150日。受け取れるのは休暇開始から1年以内、分割可
- 受けるとそれ以前の加入期間が失業給付の計算からリセットされる。学び直し→転職の人は順番に注意
- 受講料の補助(教育訓練給付金)とは別制度で、そちらの要件期間には影響しない
「辞めるか、諦めるか」の二択だと思っていたなら、三つ目の選択肢ができています。 まず、職場の就業規則に「教育訓練休暇」があるかどうか。そこから確かめてみませんか。
数字と条件の出典は厚生労働省「教育訓練休暇給付金」のページと、同ページに掲載のパンフレットです。制度は改正されることがあるので、申請前に最新の情報とハローワークの案内を確認してください。